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Kengaku Lab
iCeMS, Kyoto University

研究内容

 小脳皮質は、大脳皮質に比較すると構造が単純かつ明瞭で、神経回路について生理学的・解剖学的知見が蓄積しています。我々は小脳皮質を主要なモデル系として発生過程の諸現象を培養下で再構成し、高解像ライブイメージング技術などを用い、以下3つの項目について研究を行っています。

  1. 樹状突起パターン形成のダイナミクスと原理の解明
  2. ニューロン移動のダイナミクス制御の分子・力学機構
  3. イメージングを用いた新規解析系の開拓

(1) 樹状突起パターン形成のダイナミクスと原理の解明

 中枢神経系ニューロン樹状突起の分岐パターンは、シナプス結合する入力線維の種類と数を決め、また膜電位と細胞内シグナルの拡散に影響してニューロンの情報処理特性を規定します。このためニューロンは機能に応じて個性的な分岐パターンを獲得します。
 同一細胞種で共通の樹状形態が獲得されることから、樹状突起形成のダイナミクスは細胞種に共通の原理が作動すると考えられます。しかし発達中の脳で数日から数週間かけて完成する樹状突起のパターン形成過程を長期間観察するのは技術的に困難で、ダイナミクス(伸長・分岐・退縮)の組合せにより細胞種毎に異なる分岐パターンが獲得される機構は明らかでありません。
 我々は中枢神経系ニューロンの中でも際立って緻密な樹状突起を形成する小脳プルキンエ細胞を用い、分散培養下で樹状突起発達過程を1週間以上連続観察する系を確立し、樹状突起ダイナミクスの定量的解析と数理解析を用いてその形成原理を明らかにしました(Fujishima et al. 2012)。

培養プルキンエ細胞の樹状突起形成ダイナミクスとシミュレーション
長期タイムラプス観察により樹状突起形成過程を解析し、必要最小限のパラメータを抽出してモデル細胞を再構築した。

 また、発達中の樹状突起内でゴルジ体、ミトコンドリアなどのオルガネラの動態を可視化することにも成功しています(Wu et al, Fukumitsu et al. 2015)。近年、樹状突起発達に必要な大量のATPエネルギーが樹状突起局所のミトコンドリア活性で供給され、その供給レベルによりアクチン代謝と樹状突起伸長速度が制御されるしくみを明らかにしました(詳細はこちら)。

成長する神経突起末端では、近くまで運ばれたミトコンドリアが生産したATPエネルギーがクレアチンシャトルという機構で供給される。ATPはコフィリン分子を制御してアクチンが突起を成長させる力に変換される。

 現在、脳内の樹状突起と軸索の接合トポロジーの形成機構を解析しています。脳神経回路では、軸索同士は束化して原則として脳表面に水平に並走する一方、樹状突起は脳表面に垂直な法線方向に展開して軸索束と直交し、格子状に配向する傾向があります。この直交座標は混線しにくい効率的な神経回路の構築に寄与すると考えられています(Cuntz, Front Neuroanat. 2012; Wedeen et al., Science 2012)。これまで突起伸展の誘導やシナプス結合特異性に関わる数多くの細胞間シグナル分子が同定されていますが、それらの分布と組み合わせのみでは神経線維間の厳密な接合トポロジーを説明できません。
 カーボンナノ繊維などの人工スキャフォールドを用いた培養系で軸索-樹状突起の直交接合を再構成し、背景にある細胞・力学機構を明らかにすることを目指しています。

(2) ニューロン移動のダイナミクス制御の分子・力学機構

 ニューロンとグリアの前駆細胞である神経上皮細胞は、脳室帯と呼ばれる分裂層で活発に分裂して数を増やします。最終分裂して分化したニューロンは、脳表面に向って細胞移動し、順に積み上がって皮質を形成します(図)。ニューロン移動の異常は層構造の乱れや神経核の欠失による回路の配線ミスを招き、てんかんや精神遅滞、運動失調など様々な神経疾患を引き起こします。

ニューロン移動による皮質形成(大脳皮質の例)
脳室直下の分裂層で自己増殖する神経前駆細胞(赤)は、最終分裂後ニューロン(緑)に分化すると順次表層に向って細胞移動し、皮質を形成する。

 小脳皮質の介在ニューロンである顆粒細胞は、発生過程で最も大規模に移動する細胞のひとつです。我々は生後発達中の小脳組織を器官培養し、皮質内を移動する顆粒細胞の動きを長時間観察するリアルタイムイメージング系を確立しています。このシステムを用い、組織内を移動するニューロンのオルガネラのダイナミクスの観察に世界に先駆けて成功しました(Umeshima et al., 2007, 2013)。

小脳皮質を移動する顆粒細胞
電気穿孔法で小脳皮質の顆粒細胞前駆細胞に蛍光分子を発現させ、切片培養下で分化後の顆粒細胞移動を観察した。
移動する顆粒細胞の細胞骨格ダイナミクス
培養下で移動する顆粒細胞のアクチン動態を高時空間解像タイムラプスにより観察した。

 現在、移動するニューロンにかかる「力」の実体を探索しています。高解像顕微鏡イメージ解析、微小応力分布の定量解析、分子生物学手法を組み合わせた融合的アプローチにより、動く細胞に負荷される力を推定し、その分子実体の解明を目指しています。

(3) イメージングを用いた新規解析系の開拓

 所属するiCeMSに付属するCeMIのイメージング設備を利用し、細胞運動を評価するライブイメージング技術の開拓を行っています。また、共同研究を通じ、化学材料や力学計測技術を用いて細胞および組織の構築と機能を操作する技術の開発を目指しています。以下は現在取り組んでいるテーマの一部です。